Smokeless Cigarette’s Holder Designe’s Interview Tadahiro Ishibashi
繊細な作業の中で、プロダクトがいい表情をする瞬間を見つける
プロダクトデザイナー 石橋忠人
機能性や使い心地、そして価格。売れるプロダクトの条件が数多ある中で、デザインはどうだろうか。きらびやかに装飾された道具は、確かにユーザーの目に止まるかもしれない。しかし「ベーシックなのになぜか惹かれる」「似ている形のものもあるけどこれが好き」という、人の感覚に訴えかけるプロダクトにも理由があるはずだ。
「デザイナーは職人みたいなもの」
石橋氏はそう語る。彼が製作した無煙たばこには、吸い終わったあとも台座に置くことで吸い口が乾くような工夫が施された。ロケット型の無煙たばこは、発射台を模した台座に置くイメージ。そして3色のシンプルな無煙たばこの側面には微細なマグネットが埋め込まれ、台座に付けて保管できるようになっている。もう一種類には煙の出るタバコでは実現できなかった、心地よい森の香りが楽しめる木の素材を採用。ユーザビリティから入り、デザイン的にも遊び心を付加した作品となったが、最終的に意識したのは微妙なサイズ感だ。
「マグネット吊り下げモデルはもう少し安定感を出したい、と思い、モデルを作って何度も検証しました。吊り下げロッドをわずか0.5mm太くしたのですが、それだけで印象ががらりと変わるんです」
普段の仕事も、そんな緻密な作業の繰り返しである。ミクロな世界に、思いを込める仕事ともいえるだろう。さらに最近は素材との面白い出会いも増えており、徐々に製作の幅が広がってきていることも実感しているという。
「墓石を販売しているメーカーの、石を使った生活用品に関するコンペにも参加しました。アイデアを練る段階でリサーチしていたら、石が水を吸うという性質を持つことがわかったんです。そこで『これは自然加湿器になるかもしれない』と思い、石に水を吸わせるために特種な技術で細かな溝を掘りました。今は、電気を使わず安全な加湿器として機能させるべくブラッシュアップしているところです」
フレッシュな素材や仕事のスキームと出会いながらも、ディテールへのこだわりは一貫して外さない。プロダクトが一番「いい顔」をする瞬間を見つけるために、彼はこれからも繊細な手仕事を続けていく。
【profile】
いしばし・ただひと
1970年生まれ。KENWOODにてインハウスデザイナーとして8年の経験を積んだ後、ビジネスコンサルティング会社に転職。大手電機/医療機器メーカーのデザインコンサルティングを行う。KENWOODで培ったデザインスキルと、ビジネスコンサルティング会社で得たビジネスの知見をもって2005年に独立。家電/情報機器/医療機器等の国内外の大手メーカーをクライアントにもつ。日本デザイン振興会グッドデザイン中小企業庁長官賞等受賞多数。経済産業省デザイナー海外派遣事業選抜デザイナー(2010/2011年)。
Credit
Photograph : Takehiro Goto
Edit : Satoko Nakano