Smokeless Cigarette’s Holder Designe’s Interview Yota Kakuda
作り手の価値観を押し付けない、機能と美しさを備えた「製品」
デザイナー 角田陽太
「自分がデザインしているものは作品ではなく製品なので、必然的に、求められる条件を考察するところから始めます。そうすれば自ずとおおまかな機能、サイズ、形状も決まってくるのかもしれませんね」
まるでペンのような形状をした無煙たばこを前に、角田氏はそう語った。吸い口を汚さないためのキャップと、外した後のキャップの置き場所。そして、ポケットに忍ばせておくためのクリップ。それらを付与した結果、彼の無煙たばこには自然とペンの持つ素晴らしい機能が備わっていたのである。
「外した後のキャップは、本体末尾部でホールドできるようにしました。かつ、ホールドしたままでも吸えるように、キャップの方にも空気穴を開けています」
使い手に「使っている」と意識させない心地よさと、生活に溶け込んでいくニュートラルなデザイン。無煙たばこを含め、角田氏が作るプロダクトからはそんなホスピタリティが伝わってくる。
「デザイナーは前面に出るのではなく、モノの1歩後ろに立っているくらいでいい。特定の人にしか求められないようなデザインは、飽きちゃいますよね。そうするとプロダクトはタンスの中にしまわれたり、捨てられたりする。それはとても悲劇的なことです」
「いつまでも手元において使いたい」、あるいは「気付いたらいつもそこにあった」と思えるものだけが、時を越えて受け継がれるものとなり得るのだろう。彼がデザインした漆塗り・GFC塗装の2種類の食器も、持ちやすく、使いやすく、そして塗装がはがれても塗り直して長く使える仕様になっている。何年経っても使い手のそばにいるであろうことは、手に取った人ならわかるはずだ。
「私がデザインするものは、使ってもらいたいんです。見栄えはしないかもしれないけれど、眺めて愛でるものじゃない。使うことでほんの少し、使い手がハッピーになってくれたら」と角田氏は続ける。作り手の価値観を押し付けない、製品として無駄のない機能と美しさ。それが使い手にとってなくてはならないものになった時、プロダクトは初めて圧倒的な存在感を放つのだろう。
【profile】
かくだ・ようた
1979年、仙台市生まれ。2003年、渡英し安積伸&朋子やロス・ラブグローブの事務所で経験を積む。2007年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)デザインプロダクト学科を文化庁・新進芸術家海外留学制度の奨学生として修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、自らのデザインスタジオ、YOTA KAKUDA DESIGNを設立。国内外のクライアントを持ち、様々な分野のデザインを手がける。
Credit
Photograph : Takehiro Goto
Edit : Satoko Nakano