
Smokeless Cigarette’s Holder Designe’s Interview Akihiro Kumagaya
受け取った人の胸が高鳴るような、モノや体験を作るということ
デザイナー/ディレクター 熊谷彰博
プロダクト、グラフィック、そしてディレクション。最近では渋谷・ヒカリエのCreative Lounge MOV“aiima”にて、展示スペースのデザインや企画も定期的に手がける熊谷氏が、アイデアを練る段階で大切にしているのは人との対話だ。彼の仕事から伝わるポジティブな空気には、人との関わりの中から生まれるライブ感が投影されているようにも見える。
「自分の仕事とはまったく関係のない人に『実はこんなことを考えてて』と話すこともよくあります。そうすると、自分の言ったことを相手が変換してくれる。壁にボールを当てるだけなら返ってくる場所は予測できますが、人を介すとどこに返ってくるかわからないですよね。それが、一番楽しい時間です」
彼が製作した無煙たばこも、人との対話の中から生まれてきたアイデアだ。「大自然の中でたばこを吸うのが一番気持ちいい」という意見から、無煙たばこの素材に木を使用することを思いついた。
「たばこを吸いながら、木の香りも一緒に吸っているような体験ができるといいな、と。形は昔ながらのパイプ型で、みんなが手に取りやすいものにしました。吸った時の心地よい体験や馴染みある形状から、無煙たばこの可能性を広めていけるんじゃないかと思ったんです」

彼が意識しているのは、関わる人にとっていい選択肢は何かということ。特に「ユーザーは、最終的にどういうシチュエーションでどういう体験をするのか」を一番に考える。
「例えばボーカロイド・初音ミクのオペラ公演“THE END”が行われた際には、衣装に使われているルイ・ヴィトンのダミエ柄をメインに用いてフィギュアのパッケージをデザインしました。箱の製造過程で必要な、紙を切り抜く作業と一緒に柄も切り抜いています。それも、ルイ・ヴィトンに招待された方に『ヴィトンが関わっているんだな』という認識をしてもらうことや『何が入っているんだろう』というワクワク感を持ってもらうことが重要だと考えたんです」
それはモノ作りに留まらない。昨夏には、すぐに飽きて着なくなってしまうプリントTシャツの柄をシルクスクリーンで上から消してやろう、というワークショップも行った。「そういう、みんなと一緒に楽しめるものがいいなあ。新しい『体験』を作ることができたらって、今はすごく思う」と彼は笑う。形のあるものから、ないものまで。彼の作り出す世界はいつも、宝箱を手にした時のような胸の高鳴りを私たちに感じさせてくれるのだ。

【profile】
くまがや・あきひろ
1984年東京生まれ。新しい体験をつくる仕事。物事の奥に潜む目的を探り達成させる上で、コンセプトワーク・デザイン・ディレクションなど柔軟に参画する。主な仕事にオリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」、KDDI iida LIFESTYLE PRODUCTS「Design Sheet」「EHON TRAY」、渋谷ヒカリエ Creative Lounge MOV「aiiima」アートディレクションなど。
Credit
Photograph : Takehiro Goto
Edit : Satoko Nakano