Smokeless Cigarette’s Holder Designe’s Interview Jin Kuramoto
大切なメッセージを伝えるために、デザインは存在している
プロダクトデザイナー 倉本 仁
「スノーボードを作りたかった」
倉本氏は、自身が無煙たばこの製作に取りかかった時の思いをそう例えた。スノーボードは、ウィンタースポーツとして不動の地位を築いているスキーの代用品ではない。スノーボードがスキーとは違う魅力を持つように、彼は無煙たばこを新しい喫煙スタイルとして位置づけようとしたのである。喫煙具の印象を覆す3種類の形状と、ポップなカラーリング。それ自身がコマーシャルになるように、独自の存在感を形で表した。
「スキーをやったことのない人が『面白そうだからやってみよう』と思うような導入の魅力を、無煙たばこに持たせたかったんですよね。まったく別の喫煙スタイルが始まった、という認識を、使い手に持ってもらうためのデザインを考えた結果です」
デザイナーは、何のためにモノを作るのか。無煙たばこの場合は、認知度を上げ、その世界を広げるというミッションがあった。「それらを実現したり満足させたりするために、僕らはデザインをしている」と倉本氏は話す。
「一番大切なことを伝えるためにデザインを機能させる、という風に考えています。例えば、以前手がけた携帯電話の充電器。充電器って、鞄の中でコードがぐちゃぐちゃになりませんか? そこで、コードが巻き取れる提案をしたんです。簡単なアイデアですが、その時点で他の充電器に勝っているんですよ」
この商品は現在も人気を集めているが、プロジェクトで一番叶えたかったのは「便利な充電器を作ること」ではない。携帯電話を取り扱う通信会社の「人々のより良い生活を、真剣に考えている」というメッセージを形にし、商品を手にとった人にそれが伝わる状況を作ることだった。
無煙たばこに関しても、倉本氏曰く「それが抱える課題がなければ、このようなデザインにはなっていなかった」。課題=デザインのヒントであり、問題が理解できた時点である程度回答の輪郭は見えている。だからこそ倉本氏は「みんなが悩んでいることは何か」と日々考えることを欠かさない。それは作り手にとって、モノの価値を見出すために不可欠な作業なのである。
【profile】
くらもと・じん
1976年兵庫県淡路島生まれ。金沢美術工芸大学を卒業の後、家電メーカー勤務を経て、2008年JIN KURAMOTO STUDIOを設立。家具や家電製品、日用品等の製品開発を中心に国内外のクライアントにデザインを提供している。IF Design賞、Good Design賞等、受賞多数。
Credit
Photograph : Takehiro Goto
Edit : Satoko Nakano