Smokeless Cigarette’s Holder Designe’s Interview TORAFU ARCHITECTS
建築的思考から生まれる、固定観念に縛られないプロダクト
トラフ建築設計事務所 鈴野浩一
「敷地」という動かせないものに対して、どんな問いを立ててどう解決していくか。トラフ建築設計事務所のモノ作りのベースにあるのは、そんな「建築的思考」である。インテリアやプロダクトの製作活動にも、建築的な思考が用いられることに疑問を抱く人もいるかもしれない。しかし「僕らは敷地がないものにも、敷地を与えるところから始めます」と鈴野氏は話す。
「例えばこの無煙たばこには、まず『オフィスのデスクの上』という敷地を与えました。引き出しの中にしまいっぱなしだと吸わなくなるし、キャップがあると吸うまでの動きがひとつ増える。でも、キャップをつけずに転がっていると不衛生です。そこで吸い口がデスクに着地しないよう、ボディを立たせました。かつ吸っている時に、ガムを膨らましているようなユーモアのある形状を取り入れたんです」
自由に発想できるプロダクトだからこそ、逆に条件をしぼる。「狭い中でどれだけ広げられるか」という行為を、彼らは楽しんで行っているように見える。その中のひとつが、彼らがディレクターを務める『石巻工房』のプロダクトだ。狭い日本のテラスという「敷地」の中に「その枠を越えてスペースを作ることができないか」という問いを立て、テラスに取り付けて使う“スカイデッキ”が生まれた。どこでも成り立つものは、とかく凡庸になりがちだ。「ここでしか成り立たない」という建築の概念を、彼らは自身の作品にも投影している。
「形やテイストが違うだけでは、あとは選ぶ人の好みになってしまう。これだけたくさんモノに囲まれている中で、ニュアンスの違いのみを出してもつまらないと思うんです」
彼らの代表作である“空気の器”も、唯一無二のプロダクトだ。空気を包み込むように、形を変えられる紙の器。最初に依頼主から緑という色が敷地として与えられ、そこに「買った人が自分で緑色を作れるように」という問いを自ら課した。結果、紙の表と裏に黄と青を施すことで、角度によって二色が混じり合い、緑が見られるという不思議な器が誕生したのである。
回答ばかりに目が行きがちだが、彼らが立てる問いにこそ注目したい。固定観念に縛られない建築家だからこそ、作ることができるプロダクトの理由がそこにある。
photo (left) : Fuminari Yoshitsugu “スカイデッキ”
【profile】
とらふけんちくせっけいじむしょ
鈴野浩一と禿真哉により2004年に設立。建築の設計をはじめ、ショップのインテリアデザイン、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。主な作品に「テンプレート イン クラスカ」「NIKE1LOVE」「ブーリアン」「港北の住宅」「空気の器」など。「光の織機(Canon Milano Salone 2011)」は、会期中の最も優れた展示としてエリータデザインアワード最優秀賞に選ばれた。2011年「空気の器の本」、作品集 「TORAFU ARCHITECTS 2004-2011 トラフ建築設計事務所のアイデアとプロセス」 (ともに美術出版社)、2012年絵本「トラフの小さな都市計画」(平凡社)を刊行。
Credit
Photograph : Takehiro Goto
Edit : Satoko Nakano